(……きれいだ。)
「わたしは早乙女千夏! 情報こそがわたしの絵の具!」
「さ、さっきからずっとじろじろ……! いったいどこの変態なのよ!」
(こういう場所では、才能は入場券の半分にすぎない。)
(もう半分は、「手が折れるまで描きやめない」ことだ。)
「点数が合格ラインに届かなかった人はね~」
「明日の朝ごはんは、もう学校で食べなくていいからね♪」
「お、表でも裏でも、どうしてスーパーのチラシを試験会場に持ち込んでいるんですの!?」
「こんにちは、熊抱大吾です。千夏と同じで附属高校からの内部進学なんだ。」
「あ、このペンポーチ、自分で選んだんだよ。かわいいでしょ?」
(……母さん、ゴッホはいったい母さんに何をしたんだ。)
「あのね、寮の部屋割り表、三回も数えたんだよ! 男子がちょうど一人余って、女子もちょうど一人余ってて、」
「一人と一人で、ちょうど一部屋! わたし、頭いいでしょ?」
「み、見ないで! 耳もだめ!」
「どこもだめ!! じ、地面でも見てて!」
「よし、あなたのファイルを更新したよ。『変人。変態級の努力家の疑いあり』。」
(いや、待て、これは純粋な解剖学的観察で——)
(……うん、聞こえ方は確かに変態だ。)
「去年はね~、初日から学校の外で朝ごはんを食べた子が一人いたのよ。」
「今は駅前のパン屋さんで働いてるんですって。パンがとってもおいしいの♪」
「今年! 今年こそ、このわたくし神宮寺明日香があなたを超える年ですわ! 覚えておきなさい!」
「……あれは、わざと。」
「作風、だから。」
(ブルータス。試験前に四十七回描いた。)
(一回目は、巻き毛のジャガイモになった。)
「みんな寝る時間も足りないのに、変なことしてる暇なんてないよ~」
「顔に全部書いてあるよ。これもメモしとこ——『表情管理:零点』。」
「僕が描くハムスター、かわいいよ。」
(……ベレー帽。本当にベレー帽をかぶって美術の試験に来る人がいるんだ。)
「月城凛です。」
「話しかけないでください。」
「三年ですわよ! 三年間、わたくしが挑戦状を叩きつけるたびに、あなたは鉛筆を削ってばかり!」
(カップの影は、グレーじゃない。……青だ。)
(白黒の絵を一万枚描いてきて、一度も気づかなかった。)
「……黒は、色が濁るから。」
「あだ名は『氷の月城』! 誰とも話さない、誰とも組まない、声をかけた男子は全員戦死!」
(一万枚で、一段。割に合う計算じゃない気がする。)